採用手法
採用活動
2026.1.29
この記事の監修者:
株式会社アズライト 佐川稔

「この質問は聞いても大丈夫だっただろうか」面接の場で、ふと不安がよぎった経験はありませんか。
選考は常に人が判断する業務だからこそ、明確な線引きが難しく、悪意なく不適切な対応につながってしまうおそれがあります。
面接時の何気ない質問や対応がコンプライアンス違反となれば、企業の信頼を大きく損ねてしまいかねません。企業は適切な運用ルールや教育体制を整えることが求められています。
本記事では、採用コンプライアンスの基本から関係する主な法律、よくある違反パターン、実務で役立つ防止策まで解説します。

採用コンプライアンスとは法律を守り、応募者の人格や尊厳を損なわないよう配慮しながら、偏りのない公正な選考を進めるための考え方を指します。
企業の不祥事が社会問題に発展したことを背景に、法令遵守だけでなく説明責任や社会的責任が求められています。採用の現場でも、差別的な取り扱いを防ぎ、プロセスの透明性を保つ取り組みが欠かせません。
採用コンプライアンスの主な目的は、次の3つに集約できます。
応募者の不利益や権利侵害を生じさせないこと
企業ブランドと社会的信用を損なわないこと
公平な選考で自社に適した人材を迎え入れること
適切な採用活動を行うための体制づくりが、企業の成長に重要な経営課題だといえます。

採用コンプライアンスを守るうえで、「社内でどう対策して良いかわからない」という人事担当者は少なくありません。まずは、人事担当者が採用活動で押さえておくべき基本的な法律を把握することが重要です。
ここからは、採用コンプライアンスに欠かせない主要な法令について解説します。
雇用対策法は採用にあたって応募者を能力や適性に基づき公正に判断し、不当な差別を避けることを求める法律です。2018年の改正で、労働施策総合推進法(略称)に名称が変更されました。
雇用対策法は採用プロセスにおいて、以下の事業主が配慮すべき基本的な考え方を定めています。
年齢や性別に左右されず、公平な応募機会を保証する原則
求人票での労働条件や仕事内容についての情報開示
外国人雇用時の適正な管理
労働環境の整備・安定雇用の推進
企業は採用基準や選考フロー、求人票の内容、雇用管理体制を慎重に設計したうえでの運用が求められます。
男女雇用機会均等法は、性別を理由として応募者の雇用機会を制限したり、採用の合否を決定したりすることを禁止する法律です。企業は求人情報や面接質問、評価基準に性別による差別が含まれないよう配慮する責任があります。
採用で禁止されている主な行為は、次のとおりです。
求人情報:性別を条件とした記載
面接質問:結婚・出産・家庭状況に関する質問
評価基準:同じ行動でも性別で評価を変えること
業務を行ううえで、特定の性別が必要な職種では例外規定が認められていますが、原則は不適切とされています。企業は、面接官向けの研修を開催するといった対策が必要です。
参考:男女雇用機会均等法
職業安定法は、労働者の募集や職業紹介における基本ルールを定めた法律です。採用時の情報提供義務や虚偽求人の禁止といった、応募者の保護と透明な雇用の実現を目的としています。
職業安定法で規制される主な内容は以下のとおりです。
虚偽または誤解を招く求人情報の表示
求人時や採用時のあいまいな労働条件の提示
募集内容の無断変更
職業安定法に違反すると罰則に加えて、企業は世間からの信頼が低下し、実務上の大きなダメージにつながります。企業は、求人情報の正確な明示と虚偽表示の防止を徹底することが欠かせません。
参考:職業安定法
公正な採用選考の基本は厚生労働省が定めるガイドラインで、法令だけではカバーしきれない、実務上の選考ルールを示したものです。求職者に公平な機会を提供することを目的としています。
企業が適切な選考を行ううえで、重要なポイントは以下のとおりです。
判断基準は業務に必要な能力・適性に限定すること
応募者のプライバシーと人格的尊厳を侵害しないこと
選考プロセスの公平性と一貫性を保つこと
不適切な選考は、面接官の知識不足による無意識のバイアスが差別につながることも少なくありません。企業は採用基準や評価方法を社内で共有し、選考の透明性を高める取り組みが必須です。
参考:厚生労働省「採用選考時の基本的な考え方・公正な採用選考の基本」

採用コンプライアンス違反の多くは、悪気はなくても「知らなかった」「共有されていなかった」「確認できていなかった」という理由で発生します。違反を引き起こさないためにも、社内でコンプライアンスに対する共通認識を持つことが重要です。
ここからは、採用コンプライアンス違反を引き起こす原因について解説します。
採用のルールは複数の法律が関係するため、担当者の理解が不十分なまま選考を進めると、意図せずにコンプライアンス違反を引き起こしてしまいます。
特に求人情報の記載や面接質問の設計は法令を確認しながら、注意して行う必要があります。
次のような状態は、社内で法的知識が不足しているサインです。
面接官によって質問内容が毎回異なり、統一されていない
求人広告の内容が属人的に作られ、法的な確認が行われていない
最新の法改正やガイドラインが共有されていない
人事担当者は、社内全体で法令理解を底上げする仕組みづくりが重要です。
採用コンプライアンス違反は、担当者が法律を理解していたとしても、社内の基準が統一されていなければ発生しやすくなります。ルールが不明確だと、担当者の感覚に依存して判断がばらつき、公平性が十分に担保できません。
社内ルールが形骸化している状況は、以下のとおりです。
面接マニュアルや評価シートがない
法令遵守の観点から求人文面をチェックするフローが整備されていない
面接官への教育が一度きりで、更新・フォローが行われていない
採用コンプライアンスは個人の努力に委ねるのではなく、仕組みとして運用できる体制づくりが不可欠です。
採用コンプライアンスは、悪意がなくても気づかないうちに違反を起こしてしまうことがあります。評価基準を定めていない場合、担当者の先入観が意思決定に影響し、差別意図がなくても公平性を欠いた選考につながります。
無意識のバイアスが影響している状況は、以下のとおりです。
選考理由を言語化できないまま採用判断している
面接官ごとに合否傾向が極端に異なる
属性に関する先入観が評価の前提となっている
企業は面接官教育や評価項目の統一を行い、基準に沿った採用ができるように整備することが大切です。

一見すると何気ない質問や慣例的に行われてきた対応であっても、不適切な扱いとなり、トラブルにつながる事例は少なくありません。人事担当者は具体的な違反行為を理解し、見落としやすいリスクに気づくことが重要です。
以下では、採用コンプライアンス上問題となりやすい代表的な事例を取り上げ、注意すべきポイントを整理します。
応募者の能力や適性とは無関係な質問は人権を侵害し、不公平・差別的な扱いにつながります。
以下のような質問は、選考時に避けるべき禁止または要注意事項の典型例です。
出身地はどこですか
ご両親の職業を教えて下さい
結婚や出産の予定はありますか
どの政党を支持していますか
自宅は持ち家ですか
持病はありますか
たとえ雑談や世間話のつもりであっても、これらの質問はコンプライアンス違反につながるおそれがあるため、慎重さが求められます。面接官や人事担当者は厚生労働省のガイドラインにもとづき、事前に面接で聞いてはいけないことの質問集を作成し、共有しておくことが重要です。
応募者の性別や年齢を理由に不利益な扱いを行うことは、スキルの評価とは無関係な偏った判断となり、平等なチャンスを奪う行為です。労働施策総合推進法(旧:雇用対策法)や男女雇用機会均等法により、差別的取り扱いが原則禁止されています。
採用の過程で特に注意すべき行為の例は、以下のとおりです。
求人広告に「女性限定」「30歳以下歓迎」と記載する
「女性はすぐ辞めてしまう傾向がありますが大丈夫ですか」と聞く
未婚・既婚を判断材料に用いる
評価や求人原稿は複数名で確認し、属人的な判断に依存しない体制をつくることが重要です。
求職者は労働条件を前提に応募や入社を判断するため、情報が不透明だと不利な立場に置かれてしまいます。あいまいな労働条件の提示は、職業安定法第5条の3、第5条の4で禁止しています。
実務で起きやすい事例は、次のとおりです。
「給与は経験・能力を考慮して決定」とだけ記載する
みなし残業を明示しない・実際より少なく書く
休日・勤務地・転勤の有無をあいまいにする
労働条件の提示に関するコンプライアンス違反は、特に中途採用において起きやすくなります。企業は、雇用条件通知書と求人票の内容を一致させることが大切です。
応募者の仕事内容に関係ない個人の情報を過度に取得・利用すると、コンプライアンスの観点から公正な選考が難しくなります。採用における個人情報の取り扱いは職業安定法第5条の5によって、不当な収集が原則として認められていません。
プライバシーの侵害になり得る行為は、次のとおりです。
健康診断書の提出を採用前に求める
SNSアカウントを特定・監視し評価する
不必要な個人情報を管理担当者以外が閲覧できる状態にする
企業は個人情報の収集範囲と利用目的を明確にし、採用判断に必要な情報のみを取得するガイドラインを設けることがポイントです。
応募者ごとに選考手順や対応が異なる場合、公平な評価が行えず、応募機会の平等性が損なわれます。また、評価が担当者の主観に左右されると、判断理由の説明が困難となり、結果として企業の信頼性を失うリスクが高まります。
違反につながりやすい例は、以下のとおりです。
書類選考の合否基準が統一されていない
内定辞退を防ぐために一部の候補者にのみ特別な対応を行う
学歴や前職名で暗黙に評価が変わる
企業は選考フローや評価指標を事前に明文化し、すべての候補者へ一貫した基準で運用する体制を整えることが重要です。

採用における法令遵守の必要性は多くの企業で認識されていますが、実務へ落とし込む仕組みづくりが追いついていないことが少なくありません。担当者の判断にばらつきが出ないよう、組織としてルールと運用を設計することが不可欠です。
ここでは、組織として採用コンプライアンスを機能させるための対策について説明します。
採用コンプライアンスを守るうえでのマニュアル作成・徹底は属人化を防ぐために必要な対策です。マニュアルの整備は選考フロー・評価基準・適切な質問範囲が明確化し、現場の迷いがなくなります。
人事担当者は、以下のポイントを意識してマニュアルを整備しましょう。
フロー図やチェックリストなど使いやすい形式で作成する
アクセスしやすい場所で全員が即確認できる状態にする
法改正や社内ルール変更に合わせてアップデートする
人事担当者は最初から完璧を目指さず、面接官や現場責任者の意見を取り入れることで現場に浸透しやすくなります。
企業は採用コンプライアンスを徹底するために、定期的な研修で担当者の知識をアップデートする必要があります。研修の実施は、法改正やガイドライン変更を反映でき、社内全体の採用ルールに対する認識を揃えられます。
実施したほうが良い主な研修内容は以下のとおりです。
法令・ガイドラインのアップデート説明
面接官向けのロールプレイ
アンコンシャス・バイアス研修
人事担当者は研修効果を高めるために、座学だけでなく演習形式を取り入れると研修の効果を高められます。
企業は個人の判断に依存しないためのチェック体制の整備が欠かせません。チェック体制を強化することで、評価基準の統一や選考記録の透明化が進み、後から問題が指摘された際にも正当性を示しやすくなります。
以下は、コンプライアンスを遵守したチェックシートの項目例です。
選考フロー通りに進められたか
差別的な評価はなかったか
評価理由が具体的に記録されているか
コンプラチェックは面接官以外の第三者が行い、複数の社員で確認しましょう。チェックシートは現場の負担を減らすために、ツールやテンプレートの活用がおすすめです。
専門家への相談は、法令違反やトラブル発生のリスクを事前に察知できるため、採用コンプライアンス違反を回避しやすくなります。社内だけでは判断が難しい場面でも、対応方針を明確にできる点がメリットです。
以下のような業務は、弁護士への相談を検討しましょう。
募集文言・選考基準のリーガルチェック
トラブル発生時に対応するための方針整理
個人情報の取り扱いや管理方法の確認
採用フローの変更時や求人文面の作成時に弁護士へ確認しておくと、人事担当者は後から修正する時間やコストを抑えられます。
採用コンプライアンスとは法律やガイドラインに基づき、応募者の権利を尊重しつつ、一貫性のある選考を行うための取り組みです。人の判断が必要な採用活動は、気づかないうちに差別的な評価につながることがあります。
企業は公正な選考をするために、採用ルールの明文化や社内体制の強化が欠かせません。マニュアル整備・研修の実施・チェック体制の確立により、企業は再現性のある仕組みが整えられます。
人事担当者は採用コンプライアンスをもとに応募者にとって納得できる、信頼性の高い体制を築いていきましょう。
この記事の監修者
株式会社アズライト 佐川稔
株式会社アズライト代表取締役。採用がうまくいかない優良企業を採用できる企業へ改革するために、戦略・運用に特化した採用コンサルティングファーム「株式会社アズライト」を創業。キャリアに悩む方々のために就活・転職相談BAR「とこなつ家」を池袋にて共同経営中。
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